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東京地方裁判所 平成10年(ワ)5516号 判決

主文

一  東京地方裁判所が同庁平成四年(ケ)第一四九二号不動産競売事件につき作成した平成一〇年三月一二日付け別紙配当表のうち、被告(順位三番)に対する配当実施額等欄を「〇」とし、原告(順位二番)に対する同欄を「二〇六、〇五三、一七三」と変更する。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文第一項と同旨

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告(旧商号・株式会社東武クレジット)は、東京地方裁判所に対し、訴外株式会社ヨシミツ興産(以下「訴外会社」という。)所有の不動産(以下「本件不動産」という。)につき、競売の申立てをし(同庁平成四年(ケ)第一四九二号、以下「本件競売事件」という。)、同裁判所は、平成九年八月六日売却許可決定を行い、配当期日を平成一〇年三月一二日と指定した。

2  被告は、原告の本件競売事件の申立てに係る請求債権を差し押さえて(同庁平成七年(ル)第三六五三号、以下「本件債権差押命令事件」という。)、本件競売事件の債権者たる地位を一部承継した。

3  同裁判所は、右配当期日において、本件不動産の売却代金のうち執行費用を除いた残額二億〇六〇五万三一七三円を被告に配当し、原告に対する配当額を「〇」とする別紙配当表<証拠略>を作成した。

4  原告は、右配当期日において、右配当表につき異議を述べたが、被告が異議を承認しなかったため、異議は完結しなかった。

5  しかしながら、右配当表は、次に述べるような過誤があるから、配当表のうち、被告(順位三番)に対する配当実施額等欄を「〇」とし、原告(順位二番)に対する同欄を「二〇六、〇五三、一七三」と変更すべきである。

(一) 原告は、バブル経済崩壊による経営破綻の中で再建計画を建て、被告を含む全金融機関に対してプロラタ弁済(按分弁済)による債務整理を行っていたところ、被告が右合意を無視して訴訟提起に及んだことから、原告は、被告に対するプロラタ弁済を停止していた。

しかるところ、原告は、今般、特別清算を申し立てることとなったため、被告に対して弁済予定のまま弁済を停止していたプロラタ弁済原資(金三八七七万三五三四円相当)についても右申立て以後は任意に弁済ができなくなるものと判断されたことから、原告は、被告に対し、被告が本件債権差押命令事件による優先的回収はしないという前提で、平成一〇年二月一七日右三八七七万三五三四円を振込送金して弁済した。

ところが、被告は、本件債権差押命令事件を取り下げず、これによってさらに優先回収しようとしているものであるが、これは明らかに信義則ないし黙示の不執行合意に反し、権利の濫用に該当する。

よって、被告が本件配当に加わることはできないものというべきであるから、本件売却代金残額は原告に配当されるべきである。

(二) 原告は、平成一〇年三月二〇日、株主総会において解散決議を行うとともに、同日同裁判所に特別清算開始決定の申立てを行い、同裁判所は同年四月二八日右決定を行い(平成一〇年(ヒ)第二〇二二号)、同決定は、平成一〇年五月七日確定した。

被告の原告に対する本件債権差押命令事件は、右決定の確定により失効するに至り、被告は取立権及び配当受領権を失った。

よって、被告は、本件配当表のとおりの配当を受ける資格を有しないから、本件売却代金残額は原告に配当されるべきである。

二  被告の本案前の主張

1  被告は、本件競売事件申立てに係る原告の請求債権を差し押さえたのであるから、原告は、同債権について取立権を喪失し、代わって被告が取立権を取得したものである。したがって、取立権を有しない原告は、本件配当異議の申出権を有しないのであり、本件配当異議訴訟は不適法である。

2  原告は、被告の権利行使を権利の濫用等に当たると主張するが、これらは、被告の債権の債務名義の執行力を争うものであるから、請求異議訴訟によらなければならない。しかるに、原告は、本訴において、配当異議訴訟を提起しているのであるから、手続的に違法であり、本件訴えは却下を免れない。

三  請求原因に対する被告の認否

請求原因1ないし4の各事実は、いずれも認める。同5(一)のうち、「被告が右合意を無視して訴訟提起に及んだ」とする部分及び「被告が本件債権差押命令事件による優先的回収はしないという前提で」とする部分は、いずれも不知。その余の具体的事実は認め、法的主張は争う。同(二)は、否認ないし争う。

第三  当裁判所の判断

一  前提となる事実

請求原因1ないし4の各事実は、いずれも当事者間に争いがなく、右事実に<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告は、平成四年五月二五日ころ、東京地方裁判所に対し、訴外会社の不動産につき、本件競売事件の申立てをし、同裁判所は、平成九年八月六日売却許可決定を行い、配当期日を平成一〇年三月一二日と指定した。

2  被告は、原告に対する同裁判所平成六年(ワ)第四一〇八号事件の執行力ある判決正本に基づき、平成七年六月二〇日ころ、本件債権差押命令事件を申し立て、同裁判所は、同日その旨の債権差押命令を発したため、被告は本件競売事件の債権者たる地位を一部承継した。

3  同裁判所は、平成一〇年三月一二日、本件不動産の売却代金のうち執行費用を除いた残額二億〇六〇五万三一七三円を被告に配当し、原告に対する配当額を「〇」とする別紙配当表を作成した。

4  原告は、平成一〇年三月二〇日、株主総会において解散決議を行うとともに、同日同裁判所に特別清算開始決定の申立てを行い、同裁判所は同年四月二八日右決定を行い(平成一〇年(ヒ)第二〇二二号)、同決定は、平成一〇年五月七日確定した。

二  本案前の主張に対する判断

右認定の事実によれば、原告に対する特別清算手続の開始決定が確定したことにより、本件債権差押命令事件の効力は失われ(商法四三三条、三八三条参照)、被告の本件債権差押命令事件の債権差押命令に基づく取立権は消滅したものというべきである。そうすると、原告の本件競売事件の申立てに係る請求債権の取立権は存在したこととなるから、原告は、配当異議の申出権を有するものということができる。

したがって、原告が異議申出権を有しないことを理由とする本案前の主張は、その前提を欠くものというべきである。

また、原告は、被告の本件債権差押命令事件の債権差押命令に基づく取立権の行使自体を違法として争うものであり、その元となった債務名義である同裁判所平成六年(ワ)第四一〇八号事件の執行力ある判決正本自体の効力を争うものではないから、本訴を手続的の選択を誤った違法なものと断ずることはできない。よって、被告の本案前の主張は、いずれも失当というべきである。

三  本案に対する判断

前記一認定の事実によれば、本件債権差押命令事件の効力が失われたことにより、被告は右債権差押命令に基づく取立権及びこれに基づく配当受領権を喪失したものということができる。

そうすると、被告は、本当配当表記載の配当を受ける資格を有しないものといわざるを得ない。

したがって、本件配当表には、原告主張の過誤が存することとなる。

四  結論

右によれば、原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由があるから、これを認容することとする。

(裁判官 小磯武男)

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